『戦争法』違憲訴訟の会主催の、提訴1周年の記念講演会

『戦争法』違憲訴訟の会主催の、提訴1周年の記念講演会

前田哲男さん講演

 

『戦争法』違憲訴訟の第三回口頭弁論が五月三〇日大阪地裁で開かれ、その後、『戦争法』違憲訴訟の会主催の、提訴1周年の記念講演会がエルおおさかで開かれ、120人の人々が参加しました。

 

前田哲男さん(軍事評論家)が、「日本を戦争ができる国にしてはならない!」と題した記念講演をしました。

GPS捜査は違憲だという最高裁判決もあったのだから、戦争法の危険を訴え、司法が行政を縛ることが必要だ。むずかしいことだが不可能ではない。朝鮮半島危機の中で、戦争発動が現実の問題になっているとき、違憲か合憲かではない現実との接点が存在しているのだから、危険を訴える訴訟の意義は大きい。

 よみがえる『一九八四』

 大変な個性の持ち主であるトランプ大統領と五年目になる安倍首相の二人は、朝鮮半島危機を左右する要因になると思う。トランプが登場し、『一九八四』(ジョージ・オーエル)に書いてあることが現実になったと、この小説は米国でベストセラーになった。

戦争は平和である(憲法九条の下で「戦争法」を制定)・自由は屈従である(「秘密保護法」や「共謀罪」による威嚇)・無知は力である(「弾道ミサイル落下時の行動」指示)というわけだ。

北の核ミサイルに悪乗りして恐怖をあおるのは、安倍政権の危機管理の手口だ(国民保護ポータルサイト参照)。それは、「頑丈な建物に避難を」や「地面に伏せれば新型爆弾恐れるに足らず」という、原爆投下時の防空総本部や大本営陸軍部の指示そっくりだ。四月二九日北のミサイル発射に対し、東京メトロや北陸新幹線が止まったが、そのことに何の意味もない。

日本は原爆を何も教訓化していない。安倍内閣は、ミサイル危機をあおり国民の動きを統制し、ミサイルの脅威を口実に専守防衛崩しを図っている。そもそも核の脅威の始まりは、米ソの核軍拡競争だった。安倍政権は、北の核のみが脅威であるかのようにいい、自民党の検討チームは、「敵基地攻撃能力」の保持を安倍首相に提言した(三月三〇日)。

 

PAC3とイージス艦からの巡航ミサイルの間に地上発射型ミサイルを入れたミサイル防衛のための装備を米国から導入しようとしている。一兆円の予算が必要だ。先制攻撃するとなると、歴代内閣が守ってきた専守防衛と財政コントロール(防衛費はGDPの一%)という二つの歯止めがなくなる。文民統制も歯止めの一つだ。GDPの一%枠については安倍政権になって崩れた。

 

最近統幕議長が憲法九条の改正に言及し、憲法に自衛隊が盛り込まれたら、自衛隊の根拠規定ができるので一自衛官としてはうれしい、と発言した。これは自衛隊法違反だ。自衛隊法六一条は、選挙権の行使以外の政治活動を禁じている。

統幕議長が発言を理由に解任されたのは過去二度ある。しかし今回、内閣は注意すらしていない。自衛隊は南スーダンPKOから撤退したが、次に派遣されるときは、初めからかけつけ警護や宿営地の共同防護が任務となる。

自衛隊法逐条分析が必要だ

安倍政権は戦争法(全部で十一の法律)を一括成立させた。国会は、立憲主義や集団的自衛権については審議したが、戦争法の成立で変わる自衛隊法の逐条審議をしていない。自衛隊はこの改正された自衛隊法で動いていく。

自衛隊法の改正の例を一つ上げると、自衛隊法九五条の二の改正により、武器防護規定を米艦防護にも適用した。もとはといえば、戦闘状態の現場から邦人輸送中の米輸送艦を防護するということだった。「戦争国から逃れようとしているお父さんやお母さん、おじいさんやおばあさん、子供たちかもしれない。彼らの乗っている米国の船を今、私たちは守ることができない」、これは、安倍首相が二〇一四年五月一五日記者会見を開き、集団的自衛権行使が必要だと国民に訴えたときに使われたパネルの文言だった。このように触れ込みしながら、防護すべき米艦とは実はカールビンソンだったのだ。もし、米朝が海上で衝突すれば、米艦防護は、日本を米朝戦争に引きずり込む。安倍首相は、米艦防護の中身については、米軍の情報を漏らすことになるので、「実施の逐一についてはお答えすることは差し控えたい」(五月八日)と述べた。米艦防護はB52やF35戦闘機防護にいくらでも拡大できる。北ベトナム爆撃がトンキン湾事件から広がったように、はずみで戦争は始まる。

「働く自衛隊」という対抗構想を!

日本は、トランプ政権の望むがままに追随していく。その結果何が起きるのか。対「北朝鮮ミサイル防衛」の最前線になる(共同哨戒・THAADミサイルの導入)。対「中国海洋封じ込め戦略}の鉄砲玉になる(南シナ海での米軍の「海洋の自由作戦」への参加)。対「イスラム国壊滅作戦」への派兵(国際平和支援法により、多国籍軍or有志国連合の一員に引きずり込まれる)。

このままでは、日本は「本当に戦争をする国」になってしまう。「特定秘密保護法」と「共謀罪」で物言えぬ社会が到来。国家非常事態法の新設で基本的人権の一時停止。最後に、総仕上げとしての「九条改憲」がやってくる。しかし、「世論は九条改憲」など望んでいない。国民が望んでいるのは「はたらく自衛隊(戦う自衛隊ではなく)」だ。

民意に沿った対抗構想の提示がこそが必要だ。それがいま、護憲勢力がなすべきことではないのか。

私がかつて「平和基本法案」を提案した時、革新政党側から批判された。しかし、三年に一度内閣府が実施する「自衛隊・防衛問題に関する世論調査」(三〇〇〇人対象、面接聞き取り方式)では、結果の傾向はずっと変わっていない。二〇一五年調査結果で見ると、自衛隊に良い印象を持っている(九二・二%)。自衛隊に対する関心のある理由として、日本の平和と独立にかかわるから(四六・一%)、大規模災害などで国民生活に密接なつながりがある(二六・五%)。自衛隊が存在する目的は、災害派遣(八一・九%)。自衛隊が今後力を力を入れていく面は、災害派遣(七二・三%)、国の安全確保(六九・九%)である。

冷戦終結後、EU主要国は兵員数を激減させたが、自衛隊は全く変わっていない。一九九一年と二〇一六年の比較では、ドイツは四七万六三〇〇から一七万六八〇〇、フランスは四五万三一〇〇から二〇万二九五〇になった。自衛隊は二四万六〇〇〇から二四万七〇〇〇だ。この傾向は、戦車・作戦機・主要戦闘機などの主要兵器数でもほぼ同様だ。

「自衛隊は違憲だ」というだけではなく、民意の内容やEU主要国の例などを考えた対抗構想が必要だ。                                            ( 事務局 S)

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